ああ良かった、とほっと息を吐いたのも束の間。
不意に感じた人の視線。サーッと顔が青ざめていくのを感じながら、恐る恐る顔を上げた。
「……」
「……」
何ということでしょう。
空き教室の前にしゃがみ込んでいた美青年とばっちり目が合ったではありませんか。
いや、正確に言えば私の目は長く伸ばした前髪で隠れているわけだから、相手にはきっと目が合っていることは分からないはずだ。うん、多分、きっとそうだ、そうであってほしい。
「……」
「……」
お互いに無言のまま。
どうするのが正解なのか分からず、とりあえず持っていた鞄の中にスマホを仕舞ってみる。仕舞ったからといって、何が変わるわけでもないのだけれど。
目を逸らすことも出来ず、しばらくお互いにじっと見つめ合ったまま。腕時計の秒針がチクタクと動いていく音がやけに大きく聞こえた。
しばらくそうしていると、美青年が不意に私から目を逸らした。
興味をなくしたように床へと視線を落とした美青年を見て、金縛りが解けたように私の身体は自由を取り戻す。
思わず止めていた息を大きく吸い込み、ふーっと吐き出す。
いつもより細やかに脈打っていた心臓が動きを緩めていくのを感じながら、私はもう一度美青年を見た。