「とにかく、僕は勉強をしないと駄目なんだ。こんなふざけたことに使う時間は……」

「なんで?」


心底不思議そうな声が響く。

背の低い今井さんと目線を合わせるように膝を曲げて、日向先輩は首を傾げていた。


「なんで……って、当たり前だろう受験生なんだから。それに、君は知らないかもしれないが、僕は常に学年十位以内をキープしている。先生だって両親だって僕に期待しているんだ、その期待にはちゃんと応えなければいけないだろ」

「でもそれ、苦しくないすか?」


リノリウムの床の上、五人分の足音。

物怖じすることなく、ただ純粋に思ったことを投げかける日向先輩。


私はその様子を、テレビの向こうで見ているような気持ちで眺めていた。

さっきの今井さんの話は、一体どういうことなのか。今までの話の流れで何となく分かっているはずなのに、それでも私は知らないふりをして思考を巡らせた。


「だから屋上にいたんじゃないすか?」

「そんなわけ、……」


口ごもった今井さんに、日向先輩は笑顔を見せる。




「楽しい一秒と苦しい一秒なら、楽しいほうがいいと思うんすけど」


どうですかね、と明るい声が廊下に響いた。