「……〝死にかけ”?」


空がまた唸る。

すうっと息を吸えば、雨の降り始めの匂いがした。


私の落とした言葉は誰に拾われることもなく空気に溶けていく。

シンと静まり返った五号館二階奥の空き教室。

唾を飲み込むことさえ憚られるその状況を破ったのは、紫苑先輩だった。


「あらやだ、もうこんな時間?」

「……は?」

「日向、あんたが忘れ物したとか言うから、回収しに行く時間とっくに過ぎちゃってるわよ」

「え、……無視?」


素っ頓狂な声をあげて驚く今井さんを見事に無視して、紫苑先輩は持っていたオレンジジュースのペットボトルを冷蔵庫の中に仕舞う。

いつもはやる気なさげな紫苑先輩がそそくさと動いて、少し開いていた窓の鍵をかけて回る。


「うわ、まじか! っていうか俺、結局携帯教室に置いたままだわ!」

「あんたさっき何のために出て行ったのよ」

「いやー、途中で渡り廊下通っちゃったもんだから」

「馬鹿ね」