「どうして僕はここにいる?」

「……何が言いたいのかしら」


紫苑先輩のハスキーな声が、より一層低くなる。

急に空気がピリッとしたような気がして、ぼんやり話を聞いていた私は背筋を伸ばした。


「気づいたら、そこにいたんだ」


窓の向こうで、空が唸る。

厚い灰色の雲がどんよりと覆い、今にも雨が降りだしそうだ。


私たちがいつも洗濯物を回収しに行くのは、運動部のみんながアップや準備運動をしている時間。

そろそろみんなのところを回って洗濯物を回収しに行かないと、本格的に練習が始まってしまう。そうなるとなかなか声をかけられないし、何より邪魔になってしまう。

加えて雨も降ってきたら、さらに回収が困難になることは目に見えている。

だけど、たとえ新入部員がいたとしても強引に出発しそうな日向先輩でさえも、今井さんの言葉にじっと耳を傾けていた。




「掲示板の前に立っていたんだ。……僕は屋上にいたはずなのに」