私は思わず息をするのを忘れていた。
五号館の階段を上がったところ。すなわち二階の廊下で、ぴたりと足を止めた。
これから向かおうとしていたのは、その廊下の突き当りにある空き教室。
ただそこに行くまでにある問題が生じていた。
「……誰だあの美青年は」
音になるかならないかの微妙な声量で言葉を落とす。
ほぼ息を吐いただけのような呟きも、シンと静まり返ったこの空間には響いてしまうような気がして、咄嗟に口を押さえた。
そう。
私の目的地である空き教室の前に、人がしゃがみ込んでいるのだ。
しかもちらりと見えた横顔は、スッと鼻筋が通っていて色が白くて睫毛が長い。
今はその後ろ姿しか見えないが、サラッとした色素の薄い髪と細い腰から、美青年オーラがにじみ出ている。
どうしよう。
やっぱり、行くのはやめておこうか。
そもそも私に部活なんて多分無理だし、洗濯部だなんて聞いたこともない部活だし。
ああ、でも、だけど。
廊下の角から空き教室を見つめながら、考えを巡らせていたときだった。
――キーンコーンカーンコーン。
「うっひゃ!?」
突然鳴り響いたチャイムの音。
それに驚いて盛大に揺れた私の肩。手に持っていたスマホが滑り落ちて、カツーンと廊下にぶつかった。
「うわわわわ……!」
慌ててスマホを拾い上げ、画面にヒビが入っていないかを確認する。
幸い、手帳型のスマホケースをしていたから、画面はしっかりと守られていた。