よかった、間違えなかった、と。
長く伸ばした前髪の隙間から二人のそんな様子を見て、私はほっと胸を撫で下ろす。
人と関わらないようにして過ごしているうちに、いつの間にか分からなくなった言葉の選び方や会話のテンポ。
それを少しだけ掴めたような気がして、何だか心がふわっと浮いたような、そんな気持ちになった。
そのときだった。
「みんな集合! って何お茶してんだ! あ、チョコ!」
「日向の分は無いわよ」
「なんで!?」
勢いよく開いたドアと、思っていたよりも随分早く戻って来た日向先輩。
咄嗟に隠したチョコレートは目ざとく見つけられてしまって、何となく申し訳なくなる。だからといってチョコレートを譲る気はないのだけれど。
「……っていうか、その人どうしたの」
紫苑先輩が首を傾げる。さらりと長い黒髪が肩から落ちた。
「ああ! さっき出会ったんだ!」
嬉しそうに笑って、誰かの腕を引きながら部室に入ってきた日向先輩。
そうして話は戻るのである。