赤いグロスを塗り直しながら問いかけた紫苑先輩に対し、出欠確認したほうが部活っぽいじゃないすか、と日向先輩は返す。
私はそれを聞き流しながら、窓際にいる真央くんを見た。
いつもと同じようにパイプ椅子の上で三角座りをして、膝の上にスケッチブックを乗せている真央くんに、私は結局何も聞けていない。
昨日のごたごたは、私的にはなかなか大きな事件だったと思うけれど、どこから聞けばいいのか、そもそも聞いてもいいものなのか、考えているうちに日が暮れていた。
「って、やば。携帯教室に置いてきた!」
「あら」
「ちょっと取りに行ってくる!」
そう言って部室を飛び出していった日向先輩。
「じゃあ日向が戻って来るまでお茶しましょ。今日私チョコレート持ってるんだけど、三個しかないからどうしようって思ってたのよね。いない間に三人で食べちゃお」
「わあ……!」
紫苑先輩の素敵な提案に目を輝かせていれば、視界の端で真央くんが立ち上がる。
どうしたのかと思っていると、真央くんは棚のほうへ一直線に歩いていく。
そして、棚の一番下から電気ケトルを取り出すと、その中に水を入れ始めた。