真央くんは一瞬手を止めて、また鉛筆を走らせる。


「トランペットっていう楽器やっててね、私結構その……上手だったの」


自分で上手とか言って引かれないかな、と一瞬思ったけれど真央くんはそんなこと気にしなさそうだと思い直して口にする。

お箸で、クマの顔をしたおにぎりを割る。一口食べるとほのかに醤油の味がした。


「でも、吹けなくなっちゃったんだ。……怖くて」


ふふっと自嘲するような笑いが漏れた。

でも、真央くんは笑わない。ただじっと、隣に座っているだけだ。


「仲良かった子たちとも、何となくよそよそしくなっちゃって」


避けられたわけではない。どちらかというと私が避けた。

私にどう関わっていいか迷っているみんなに、気を遣ってほしくなくて、距離を置いた。

前髪を伸ばし始めたのは、ちょうどその頃からだった。


「戻って来るの待ってるよ、って言ってくれたり、手紙書いてくれたりする子もいたんだけど、それも私が拒否して」


クマの耳の部分は半分に切ったハンバーグ。薄く焼いた卵を半円に切ったものがその上に乗っていた。


何度も何度も、吹いてみようと試みた。

でも、いざ手に持つと指が震えて、唇が動かなかった。