「そうなんだ。みんな頑張ってね」

「え、あ、葵ちゃん」

「じゃあ」


何か言いたげな三人の視線から逃げるように足を踏み出す。

一歩、二歩、三歩。

どんどん加速していく自分の足と、大きくなっていく心臓の音。


ちゃんと笑えていただろうか。いや、でも噛まずに話せたからよかったかな。

膨れ上がっていく自己嫌悪に蓋をしながら、早足で廊下を歩く。


戻れるなら戻りたい。でも、戻り方が分からない。

そんなどうしようもない想いを抱きながら体育館横に来てみれば、朝は降っていなかった雨がポツポツと降りだしていた。


ああ、もう、どうしたらいいんだろう。

大きく息を吐いて花壇に視線を落とす。色とりどりのパンジーは雨粒を花びらに乗せて、じっと私を見つめるように咲いていた。









「……こ、こんにちは」


五号館二階奥の空き教室。ガラッとドアを開けると、窓際に座っていた美青年は顔を上げた。

色素の薄い瞳がこっちを向いたのを感じてぎこちなく挨拶をすると、真央くんは興味なさげに視線をスケッチブックへと戻した。