「おーい村瀬、バトンパスするぞー」
「今行きまーす」
しばらく話していると、飛んできた村瀬さんを呼ぶ声。それに手を挙げて返事をしながら、村瀬さんは日向先輩に向き直る。
「なあ三浦、お前さ……」
「呼ばれてんだろ、早く行けって」
それまで笑顔だった村瀬さんの顔が急に真剣になって、空気が変わった。
「いつまでそこにいるつもりなんだよ」
五月の涼しい風が吹く。
長い前髪が横に靡いて視界が開けた。
「本当は……」
「いやー、俺、洗濯に情熱注いでるからさ! あんま他のこと考えられねーんだよな!」
「……三浦」
「悪いな! 村瀬が俺のこと大好きなのは分かったからさ!」
「ああ!?」
誰が大好きだ、と呆れたように村瀬さんは吐き出す。日向先輩はケラケラと笑いながらその背中を押した。
「ほら、早く行けよ」
「あー……、そうだな。じゃあまた」
私たちに手を振って、軽やかに走っていく村瀬さん。
その後ろ姿を見送る日向先輩がどんな顔をしていたのか、私には見えなかった。