「まあそうなんだけど。一応な!」
「あっそ。……あれ、見ない顔だな」
不意に村瀬さんの視線が私のほうを向いた。慌ててぺこりと頭を下げると村瀬さんはにこっと笑って、あろうことか私の目の前までやって来た。
「新入りちゃん? 一年?」
あまりの爽やかさに目がやられる。今なら日光が苦手なドラキュラの気持ちも分かりそうだ。
前髪伸ばしていてよかった、と心の中で息を吐きながらコクコクと頷く。
「名前は?」
「あ、えと、と、戸田葵です」
「葵ちゃん。俺は陸部二年の村瀬っていいます」
よろしく、と笑顔で言われて私はまたコクコクと頷いた。
「紫苑さんもうそんな日焼け対策してるんすか」
「春の紫外線馬鹿にしてんじゃないわよ。あんたすでに茶色いじゃない」
「あは、確かに。つーか真央くん、葵ちゃんにあれ持たせてんの? 鬼畜だなー」
「……」
紫苑先輩や真央くんにも気さくに話しかけていく村瀬さん。
どうやらこれもいつものことらしく、村瀬さんは真央くんにスルーされてもまったく気にする様子がない。
そして自分が持っているかごの存在を再認識してしまった私は、その強烈な匂いに息を止めた。