「え!?」

「え」


彼女の鈴の音みたいな声と、聞き慣れない低い声が揃った。

そういえば、自分が声を失ったのは変声期前の小学生のときのことだ。初めて聞く自分の低い声に、違和感がするのは当たり前のことか。

あーっと声を出してみる。どうにも少し震えるし扱い方が思い出せない。

けれど、目の前に仁王立ちしていたびしょ濡れの彼女は、目を爛々と輝かせてこう言った。


「真央く、ま、真央くん、もう一回!」

「……?」

「もう一回、呼んで……」


耳をずいっとこちらに寄せて、せがむように。

彼女の頬が少し赤くなっていることが信じがたくて、やっぱり自分は夢でも見てるんじゃないかと思う。念のために自分の頬を抓ってみると痛かった。


これが現実のことなのだと思うと、何だか急に恥ずかしさが込み上げてきて。

でも、言えるときに言わないとまた後悔するような気がして。