「真央くんはどうやって退部していくのかな」


ごちそうさま、と空になったマグカップを置いて養護教諭は立ち上がる。

流れるような動作で部室から出て行った魔女を、真央は白けた目で見送った。



どうやってって、どういうことだ。どうやって声を取り戻すのかということだろうか。

退部していった部員たちは、みんなそれぞれが抱えていた問題を解決して前を向いて出て行った。

自分が抱えている問題は、確かに家庭環境も少しは含まれているかもしれないけれど、九割五分くらいを声が占めている気がする。


だとしたら、自分がここから出て行くことは不可能だ。


そもそも自分が声を出そうとしたのは、全部彼女に向けてだった。


(ありがとう)

彼女にお礼を言いたくて。


(それ以上、こっちに来るな)

彼女を苦しめたくなくて。


(ごめん)

彼女を苦しめていたことを知って。


(大丈夫)

彼女の背中を押したくて。


(俺もいる)

彼女に自分を見て欲しくて。


だけど彼女はもういない。ここに戻って来ることはない。

この声を届けたいと思う相手がいないのであれば、きっと自分は声を発することはないだろう。