「真央くんの淹れてくれるコーヒーは格別ね」
マグカップに口をつけて、大袈裟に褒めてくる養護教諭。
淹れる人によって味が変わることなんてあるのだろうか、と疑問に思いながら自分はココアを飲んだ。
「それにしても、みんな立て続けに退部していったわね」
壁に飾ってある絵を眺めながら養護教諭は言う。
色白黒髪美人と部長の似顔絵は隣り合うように飾った。その横に空けてあるのはもちろん彼女の似顔絵のためのスペースだ。
彼女がこの部室にやって来たとき、真央は絶望した。彼女のようなよく笑う明るい人が“死にかけ”になっていたことが信じられなかった。
なんでこんなところに来たんだ、と感情のまま声にならない声で叫んだ。来てほしくなかったのだ、こちら側に。
どうにかして追い返したかったし、さっさと出て行ってほしかった。
けれど、人と関わることに怯えていた彼女が前を向いていく姿を支えたいとも思った。
彼は自分の人生が幸せかどうかなんて分からなかった。
恵まれているとか、恵まれていないとか、そういうのは他人と比べた結果だと思う。
でも、彼女の成長していく姿を隣で見ることができた一ヶ月は、間違いなく幸せな時間だったと感じている。