中学二年の夏だった。

体調が安定せず入退院を繰り返していた真央は、ほとんど学校には行っていなかったが、その日は書類を提出するために、一人で学校に来ていた。いつもなら叔母と一緒に、もしくは叔母だけで行ってもらっていたことだった。

夜に近い夕方、部活動をしていた生徒が帰路につく時間帯。ちょうど教師も部活動の指導が終わる時間帯に、彼は職員室を目指していた。


しかし。


ここはどこだ。


一人で学校に来たことがなかった彼は、見事に迷った。

まだ明かりのついている教室は多く、外から見てもどこが職員室か分からない。小学校もほとんど院内学級に通っていた彼は、学校というものの造りを把握できていなかった。

どうしようかと考えあぐねていたときだった。


『うっわわわ、びっくりした!』


バサバサッと自分の腕から書類が落ちた。

互いの前方不注意。

廊下の角でぶつかりそうになった女子生徒の手には、シルバーのトランペットが握られていた。