父親は気づくことができなかった自分を責めて、うつ状態になったらしい。

自分を引き取ってくれた叔母からそう聞かされたときも、彼はその意味をあまり理解できなかった。


ただ、自分に向けられていた二つの愛情から、ばっさりと切り離されたことだけが分かった。


そんな過去の経験から、彼自身も精神的に苦痛を受けていた。

声が出なくなったのは小学校を卒業する頃。精神病棟を抜け出した母親が真央を連れて心中しようとしたことがきっかけだった。




「おーい、真央くん」


一心不乱に絵を描いていた彼に声を掛けてきたのは、見た目二十代のアラフォー養護教諭。


「あんまり根詰めてると、逆効果を生みますよ」


アートセラピーを医師に勧められたのは、まだ母親が近くにいた頃。

長期入院で溜まるストレスを絵を描くことで解消し、また医師も真央の描いた絵を見ることでその心理状態を見ていたそうだ。

そのときから暇さえあれば絵を描いていた。それが彼の唯一の趣味であり、特技であった。


「そろそろ一服しませんか」


養護教諭の提案に小さく頷いて、立ち上がる。

電気ケトルでお湯を沸かす間、彼はぼんやりと中学時代のことを思い返していた。