桜さんは元気ですか。私、このヘアピンからいつも勇気を貰っているんです。紫苑先輩がいてくれたから、今の私がいます。

言いたいことはいっぱいあった。だけど今はそれどころではない。だからこれはまた今度、丁寧に伝えよう。



「五号館はどこですか……っ」


今一番知りたいことだけを口にした。

そんな私を驚いたように見た紫苑先輩は、次第にその視線を足元へと下ろしていく。


「……そう。葵ちゃんは退部したのね」

「ちょっと君たち、廊下で何を騒いでいるんだ」


集中できないから静かにしてくれないか、と。

紫苑先輩の言葉を遮るように廊下に響いたのは、教室からひょっこりと顔を出した男子生徒の声。

その人に見覚えがあって、思わず私は瞬きをした。


「って、木村と……確か、洗濯部の」


向こうも私に気づいたようで、そう言いながらこちらへと向かって来た。

いつだったか体験入部に来たその人は、あの日と変わらず背は低めで眼鏡をかけている。