私はいつもどこから五号館へ行っていたのか、思い出せなかった。

だけど、それでも、どうにかして彼に会って話したいことがある。


「……っ、はあっ」


渡り廊下でローファーを脱いだ。紺色のハイソックスはすでにぐしょぐしょに濡れている。

結局使わなかった傘を校舎の壁に立てかけた。右手の人差し指と中指にローファーを引っ掛けて、左手でスケッチブックの一ページを胸に抱いて、一号館の中に入った。

私が通った廊下は水浸しになったけれど、足を止めることはしない。


「どこ、どこに……っ」



五号館はどこにあるの。



一号館にあるのは私たち一年生の教室と、二年生の教室。

四階建てのその校舎を、端から端まで走る。

それでもやっぱり五号館への入口は見当たらず、私はそのまま二号館へと直結している廊下を走った。


二号館には三年生の教室と、各階に自習室が設けられている。

受験生にとって勝負の夏が近付いてきているからか、自習室にはたくさん人がいて、それぞれの教室に残って勉強をする生徒の姿も見られた。

一号館と同様に、端から端まで走る。ただ、勉強している三年生の邪魔にならないように、足音を極力消しながら。