そして判明したことがもう一つ。

私のジャズトランペットの師匠である米川さんは、教えることが究極に下手だった。

というより、米川さんは完全に天才型の感覚派で、自分のやっていることを言葉にすることができないようだった。

そんなわけで、私のジャズ人生は早くも難航しているのである。



「そんで、家はどのへんなの?」

「あ、もうすぐ着くよ。あの角曲がったところ」


スタジオ練習がない今日、暇を持て余した米川さんがうちに遊びに来たいと言ったのがきっかけで、私たちは並んで家までの道を歩いていた。

お昼休みにお母さんへその旨を伝えると、汗をかいたブタのスタンプが送られてきた。家汚いかもしれないという焦りだそうだ。

まあ私たちの学校が終わる頃にはお母さんのパートは終わっているだろうから、その間に死に物狂いで片付けてくれているんじゃないかな、なんて他人事のように思う私はとても薄情な娘である。


角を曲がって見えた我が家。米川さんの前に立って玄関のドアを開ける。


「ただいま」

「お邪魔しまーす」


差していた傘を閉じて傘立てに入れていると、リビングからお母さんが飛び出してきた。