『嫌な感情は全部洗ってしまえばいい。綺麗に干して、アイロンをかけて、またシャンと立って歩けるように』
シャンと背筋を伸ばして、隣に座る彼と向き合った。
ここで教えてもらったたくさんのことを、きっと忘れない。
大丈夫。
もう、ちゃんと生きていける。
「……お世話に、なりました」
じっとその色素の薄い瞳を見つめて口を開いた。
ゆっくりと頷いた彼を見て、葵もゆっくりと頷きを返した。
“かつての相棒”と一緒に部室を出た。
ドアの前に並べられていた石の境界線を越える。
長い廊下を自分だけの足音が響いた。
階段を下りて、五号館の外に出る。
雨の中、傘を差して、一度だけ振り向いた。