「私、ちゃんと吹けた……っ」
泣きそうになった葵の両頬を、むにっと冷たい指が掴む。
へ、と突然のことに声を漏らせば。
「……どうして、私より先に真央くんが泣いてるの」
キメの細かい肌の上を、雨粒のような涙が滑り落ちていた。
予想外の反応に思わず笑みを零せば、誤魔化すように頬を掴む指に力が入る。
痛いと訴えると、すぐにその力は弱まって心配したように眉を下げた美青年が顔を覗き込んでくる。
この不思議な関係は一体何なのだろう。
友だちが欲しいと思って入部した洗濯部で出会った同級生。それを友だちという言葉で括ってしまうのは、あまりに違うような気がした。
「ねえ、真央くん」
心の洗濯、と日向先輩が言っていた声が蘇る。
あのときの自分は“すすぎ”だと言われたけれど、新しくやりたいことも見つけて、過去と向き合うことができた今、とても晴れやかな気持ちだ。