はあ、と息を吐き出した。
怖い気持ちはもうどこかへ消えていた。
あの十六小節を、今なら吹けるような気がした。
深く息を吸ってトランペットを構えた葵を、真央はただ見守った。
半年以上のブランクはやっぱり音色に出ていた。それでも、何度も何度も練習をした十六小節は身体が覚えていて。
長いような、短いような、不思議な時間。
でも、あのコンクールの思い出を上書きするような、そんな演奏を。
「……っ、……」
トランペットを唇から離した。十六小節を吹き終えた葵は、込み上げてくる何かを抑えようと唇を噛んだ。
それすらも分かっていたかのように、隣からそっと手が伸びてくる。
「……ふ、吹けた」
頬に冷たい指先が触れる。
「吹けたよ、真央くん」
こくりと頷きが返ってくる。色素の薄い髪が揺れた。