大きく息を吸った。
唇に触れるマウスピースの感覚。
ブヒョー。
不格好な音が鳴った。
「……っ!」
唇を離して、隣へと視線を向ける。
不格好でも何でも良かった。音を鳴らせたことに、喉の奥が熱くなった。
真央はそんな葵に、ゆっくりと頷く。聴いていたよ、とその瞳が言っていた。
もう一度、息を吹き込む。
今度はさっきよりも幾分かマシな音が出た。
半年以上吹いていなかったけれど、やっぱり身体はよく覚えていて。
唇の震わせ方や息の出し方、指の動かし方。
それらが違和感なくトランペットに馴染んでいく。
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