左手の親指は一番トリガーに、薬指は三番トリガーに。
右手の人差し指、中指、薬指はそれぞれピストンの上に乗せて、フィンガーフックに小指をかける。
その動作はもう身体に馴染んでいたもので、何も考えずに行うことができる。
パイプ椅子に浅く腰掛ける。
背筋を伸ばして、目線は水平に前方へ。
雨の音がより一層強くなったように感じる。この雨の音があれば、どれだけ下手な演奏をしても自分たち以外には聴かれないんじゃないかと思うと、心が軽くなった。
まだ少しの怖さはある。
けれど、前を向くために、吹けるようになりたかった。
紫苑先輩は自分の存在価値を教えてくれた。
日向先輩はその背中で前へと導いてくれた。
村瀬さんがデートに誘ってくれたおかげで米川さんへの見方が変わった。
そして隣にいる彼は、そっと背中を押してくれる。