「うん。養護教諭の古賀ちゃんって分かる?」
「養護教諭、……魔女先生ですか?」
「あ、知ってるのね」
紫苑先輩はくすくすと笑いながら、そう、と頷く。
噂話に疎い私でも知っている養護教諭の古賀先生。見た感じ若い女の先生だけれど、実は随分長い間この学校の保健室にいるらしく、年齢不詳だそうだ。
ふわふわと優しい雰囲気の古賀先生は、一部の生徒から魔女先生と呼ばれている。
「古賀ちゃんね、うちの部の顧問みたいな感じで、まあ結構様子見に来てくれてて」
「へ、へえ」
「だから保健室のものもたまに洗濯してくれって押し付けてくるのよ。それで……」
「ちょっと! いつの間にみんな消えてんだよ!」
紫苑先輩の言葉を遮るように聞こえた、大きな声。
聞き覚えのあるその声に振り向くと、すでに一人で突き進んでいたらしい日向先輩が、顔を赤くしながら私たちのほうに戻ってくるのが見えた。
話し込んでいてすっかりその存在を忘れてしまっていた、と思いながらちらりと紫苑先輩を見ると、あーはいはいと気の抜けた返事をしていた。どうやら、こういうことはよくあるらしい。
「まったく、洗濯物取りに行くだけですげー時間かかるじゃねーか」
「まあまあ」
「お願いだからついてきて!」
なだめるように笑う紫苑先輩と、不服そうな日向先輩。
二人の様子を交互に見やって、戸惑いながらも今度こそ日向先輩の後に続いてグラウンドを歩いた。