吹きたいのに、吹けなくて。みんなと話したいのに、上手く話せなくて。戻りたいのに、戻れなくて。
挑戦しようとするたびに絶望を味わうのなら、自ら背を向けるほうが楽だと思った。
「……っ」
またあのときの記憶がフラッシュバックしそうになって、トランペットへと伸ばしかけていた手を握った。
やっぱり、無理なのだろうか。諦めたほうがいいのだろうか。
そんな考えが頭をよぎったときだった。
「え……」
固く握った手の甲を、するりと冷たい指先が撫でた。
反射的に視線を向けると、真央の両手が葵の手を包むようにしていた。
呆気にとられているうちに、その冷たい両手が強く握りすぎていた葵の拳を解いていく。
「……真央くん」
名前を呼べば、色素の薄い瞳がじっとこちらを向く。
思い返してみると、いつだってこの美青年はじっと食い入るように目を逸らさなかった。そんな彼に何度救われたことだろう。