真央は隣のパイプ椅子の上で三角座りをして、いつものように膝の上にスケッチブックを広げている。
「ちゃんと話してみたらね、すごく楽しくて。もっともっと米川さんと話したいと思ったし、ジャズも勉強したくなった」
シャッシャッと鉛筆がスケッチブックの上を滑る。
雨音と重なったBGMに身を委ねれば、ぽつりぽつりと本音が零れていく。
コンクールが終わったあと、部員のみんなは葵にどう声をかけるべきか考えあぐねていたようだった。
銀賞。狙っていたものとは違うその響きに、涙が止まらなかった。
『お疲れさま、良かったよ』
そう肩を叩かれた。それがとてもつらかった。
自分の演奏が全然良くなかったことは、自分自身が一番よく分かっていた。
『また次頑張ろう』
そう言われても、頑張れなかった。また失敗したらと思うと、怖くて吹けなかった。
部活に行かなくなった葵に、周りは声をかけ続けた。
『戻って来るの待ってるから』
そう書かれた手紙を毎日渡してくれる子もいた。それでも、もう戻ることなんてできなくて。
下駄箱の中にトランペットを吹いている自分の似顔絵が入っていたこともあった。あまりに上手すぎて、嫌味かと思うほどだった。