それから葵は、全体での練習のあとに自主練をするようになった。
楽譜はもう何が書いてあるのか読めないほどに、気を付ける点を書き込んだ。
顧問の言うことに、はい! 部長の言うことに、はい! パートリーダーの言うことに、はい! とにかく大きい声で返事をした。
すぐ乾く唇に、リップクリームを塗りたくった。香り付きのそれは、いつもあっという間に減っていったし、どこかへ消えることも日常茶飯事だった。
夏は閉め切った音楽室で、蒸されるような思いをした。
冬は冷たくなったトランペットに、ひたすらやばいと言い続けた。
そして中学三年の夏。
コンクール、トランペットのソロを任された。
『葵なら絶対大丈夫!』
周りはそう言って応援してくれた。自分も、絶対に大丈夫だと思っていた。
そう思えるほどの練習をした。努力をした。
――そのはずだった。