そもそも葵は、社交的で明るいタイプの人間だった。
友だちもそれなりに多く、ハブられることはまずなかった。
中学生になって部活を選ぶときも、周りの友だちが吹奏楽部に入ったから、その流れに乗ったようなものだった。
しかし実際に入ってみると、最初は筋トレとランニングばかりで、気が滅入りそうになった。
ひょっとするとそこらの運動部よりも走り込んでいたかもしれない。
ただ、二十万もするトランペットを買ってもらった以上、生半可な気持ちでやるわけにもいかず、周りよりも気合いを入れて練習に励んでいたと思う。
その成果が表れ始めたのは中学二年生の頃だった。
上下関係の厳しい吹奏楽部では、ソロは三年生が務めることが通例となっていたが、当時二年生だった葵にその役が回ってきたのだった。
『葵が吹いたほうがいいよ』
パートリーダーだった先輩は温厚な性格で、ソロを奪うような形になった葵のことを少しも責めたりはしなかった。
周りもそうだった。
誰にも文句を言わせないくらい、音色が明らかに違ったのだ。