タイミングが良いのか悪いのか。いや、今回は完全に悪いほうだ。

私たちに好奇の視線を投げつけていたクラスメイトは、ガタガタと自分の席に着き始める。


それでも私は、せっかく湧いてきた勇気を無駄にしたくなかった。ここで話すのをやめたら、もう二度と話せないような気がした。

米川さんに腕を掴まれたまま席に着く気配のない私の後ろを、廊下から戻って来たクラスメイトが迷惑そうに通っていく。

私は米川さんから目を逸らさなかった。米川さんも私の言葉の続きを促すように、じっと私を見ていた。


それが合図だったように思う。



「来てっ」


私が米川さんにそう言うのと、米川さんが席を立ったのは、ほぼ同時だった。


教室の前のドアから担任の先生が入ってくるのと入れ替わるように、私たちは後ろのドアから廊下へと出た。

腕は米川さんに掴まれたまま。


どこの教室もSHRをしている中、私たちは二人並んで廊下を走った。

パタパタと二人分の足音が廊下に響く。

何だか悪いことをしているみたいでそわそわしたけれど、隣を走る米川さんがとても楽しそうにしていたから、私は勇気を出してよかったと心から思った。