そんな米川さんが、おはようと言った。
カラコンで一回り大きくなった瞳をじっと私のほうに向けて、挨拶をしたのだ。
「え……?」
きょろきょろと前後左右を見回してみるけれど、明らかに米川さんは私を見ていた。
「わ、わた、し?」
挙動不審になりながら米川さんに聞き返せば、おはよう、ともう一度声が返ってくる。
紛れもなく私に向けられているその挨拶。消え入るような声でおはようと返して、そのまま席に着こうとすれば腕を掴まれた。
へ、と思って私の腕を掴む手を辿れば、それはやっぱり米川さんで。
「惚れたってどういうこと?」
至極不思議そうな声で真っ直ぐ向けられたその問いかけに、私は今すぐ部室に戻りたくなった。
しかし腕を掴まれているため、それは実行不可能。どうしようかと視線を泳がせれば、教室中から向けられる無数の視線。
あと少しで本鈴が鳴る。担任の先生がSHRをしに教室へとやって来るだろう。
そうしたらこの状況から逃げることができる――、そこまで考えた私の脳裏に真央くんのスケッチブックが浮かんだ。