本当はもっとここに居て欲しい。誰よりも頼れるこの部長に私たちを導いて欲しい。
そう思うけれど、日向先輩がようやく一歩を踏み出したのだ。
日向先輩がそれを決めたのなら、私たちにできるのは背中を押すことだけ。
「日向先輩がいなくても、私たち、ちゃんと前を向きますから」
最後にこれだけ渡しておこうと、ずっと鞄の中に入れていたものを机の上に置いた。それを見た日向先輩は、苦笑いを浮かべる。
「捨てるなら、自分の手で捨ててください」
ビリッと大きく破られた、賞状の上半分。三浦日向殿と名前が書かれていて、100mで優勝していることがはっきりと読み取れるそれは、この前ごみ箱の下から発掘したものだ。
日向先輩はゆっくりとそれを手に取って、ひらひらと揺らす。
「……持っててくれたのか」
さんきゅ、と言いながら大切そうに賞状の上半分を自分のリュックに仕舞う。
どういたしまして、と私は小さく呟いて、またマグカップに口をつけた。