第三走者がマークを越えた。瞬間的に村瀬が飛び出す。
流れるようなバトンパスだった。
思えば、村瀬の走りをちゃんと見たのは一年春の記録会以来。それはもちろん、見ないようにしてきたからなのだけれど。
その走りに鳥肌が立った。
周りの選手に比べて足の回転が速い。後半になるにつれてどんどん加速していく。
「タイソン・ゲイ……」
「げ、ゲイ?」
まるで一瞬のようだった。前にいた二校を追い抜いて、村瀬の肩がゴールラインを一番に越えた。
小学生の頃に見た世界陸上。憧れた選手。まるでそれが自分の友だちに憑依していたような気になって、思わず立ち上がる。
驚いたように葵が日向を呼ぶ。でももう、座っていられなかった。
階段を駆け下りて、ゴール側へと走った。
走り終えた選手たちが不思議そうに自分を見て、あれって三浦じゃね、と話し出す前に通り過ぎる。
「村瀬!」
その中に見つけた、自分の高校のユニフォーム。
見慣れた後ろ姿に声をかければ、村瀬はにやりと笑って振り返る。