「オンユアマークス」
スターターの低い声。第一走者がスタブロにつく。
しんと静まり返るスタンド。
そうだ。この張り詰めた空気が好きだった。
「セット」
腰が上がる。パンと大きな合図がした。
何度も何度も、スタート練習をした。腕に自分の体重を乗せて、雷管の音で反射的に飛び出せるように耳を澄ますのだ。それがどうにも苦手で、自分は後半に加速するタイプだったことも思い出す。
第一走者から第二走者へ、第二走者から第三走者へ、バトンは流れるように渡っていく。
あのときの大会よりも規模が小さい大会だからか、この時点で自分たちの学校は三位だった。
周りの歓声が遠のいていく。
村瀬の緊張が移ったように、ドクリ、ドクリ、心臓の音だけが聞こえた。
前の二校とそこまでの差はついていない。
いける。
そう思った。