「ちょ……、日向先輩速すぎ……」
「おいお前らさっさとついてこい! もう始まるだろが!」
「なんでそんなに元気なんですか……」
競技場に着く頃には、両隣にいた二人はぜーぜーと息を切らしていた。
階段を駆け上がってスタンドに立つと、陸上の大会特有の空気がそこには広がっていて、懐かしさで震えた。
一年生のときに陸上部を辞めてから、ほぼまるっと一年間、避けていたこの空気。トラックに注目している人もいれば、投擲に注目している人もいるし、跳躍に注目している人もいる。
これは個人競技ならではの空気で、だからこそ観客が一体となるリレーは最高なのだ。
「間に合いました、か……?」
肩で息をしながら崩れるように空いていた席に座ったのは、典型的な文化部の葵。
その隣にぴったりと引っ付くようにして、まさしく身体弱いんです、といったような風貌の真央が座った。
「……うん」
タイミングよく、それぞれのコーナーに選手が出てきたところだった。
第一走者はバトンを持ってスタートの確認をし、それ以外の走者はマークを置いている。