忘れたんですか、今日は出張洗濯部ですよ。
出会った頃にはおどおどしていた葵が、しっかりと目を見て言う。ヘアピンで前髪を留めて、あらわになっている額にはうっすらと汗が浮かんでいた。頬は少し赤くなっていて、この暑い中ずっと待っていたことが窺える。
左側に立つ真央は、その細い腕のどこにそんな力があるのか、がっちりと腕を掴んで離さない。声がなくとも、その強い瞳でじっと日向を見ていた。
「急いでください、リレーの決勝もうすぐなんです」
そう言いながら右腕を葵が引っ張る。
「私、頼まれたんです。日向先輩を連れて来てって。頭を下げてまで頼られたこと、初めてで」
約束したんです、必ず連れて行くって。
左腕を掴む力がより強くなった。真央は葵に頼まれた通り、日向を逃がさないようにしている。
「日向先輩のことに、勝手に首を突っ込んでしまってごめんなさい。でも、私、嬉しかったんです」
「……嬉しかった?」
気になって聞き返すと、葵はこくりと頷いた。
「頼ってもらえて、任せてもらえて、嬉しかったんです」