三浦日向が洗濯部に入ったのは、そのあとすぐのことだった。


何となく、陸上部にいるのが苦しくなったのだ。

大会のあと自分の怪我のことは部員みんなが知ることとなって、憐れむような視線が向けられていることに嫌気が差した。

怪我の治療はしっかりして、リハビリもして、完治したけれど、それでも戻る気はなかった。

憐れまれるのが嫌だったから、馬鹿みたいに明るく楽しく洗濯に打ち込んだ。洗濯に夢中だなんて傍から見たら可笑しなことだと分かってはいたけれど。



そうでもしないと忘れられなかったのだ。


タイソン・ゲイに憧れて走った日々を。

一位とったら夜ご飯唐揚げにしてあげる、と母に言われて走った日々を。

朝練前、グラウンドに石灰でコースを引いて、ガタガタになったのを笑いながら走った日々を。

レスト中に好きな女の子の話で盛り上がりすぎて、顧問に怒られながら走った日々を。

ビデオで自分のフォームを確認して、歩数を研究して走った日々を。



――忘れられなかったのだ。