「母さん、腹減ったー」

「えー知らないわよ、もうお昼ご飯も片付けちゃったし」

「殺生な!」

「じゃあ起きろって言ってんの」


育ち盛りの息子に何てことを、と言っても母は知らん顔で録画していたらしいドラマを見始める。

父はどうやら釣りに行っているらしい。相変わらずアクティブだなと思いながらリビングを後にした。


「コンビニで何か適当に買うか」


仕方ない、と独り言を呟いて財布とスマホを握る。寝癖が付いていたけれど、まあ誰にも会わないだろうしいいだろう。

どっか行くの、とリビングから飛んでくる母の声に、コンビニ、とだけ返して靴を履く。



今でもたまに夢に見る。

落胆したような部員の顔と、三年生の先輩たちの涙。


『最後、抜いただろ!』


補欠だった先輩がそう言って胸倉を掴んできたことも、よく覚えている。

力を抜いたわけではなくて抜けたのだ、とは言えなかった。

最後の挨拶のとき、みんなの視線が自分のほうを向いているのが嫌だった。村瀬が何か言いたげにしていたのにも気づいていたけれど、知らない振りをした。