――三浦日向は眠りについていた。



「日向、あんたいい加減起きなさい」


土曜日だからって今何時だと思ってるの、と母の声が聞こえる。

重い瞼をゆっくりと上げて枕元に置いていたスマホで確認すれば、すでに時刻は午後二時を回っていた。

窓からは明るい日差しが入ってくる。てるてる坊主を作った甲斐があったな、と思いかけて、慌ててその考えを消し去った。



陸上との出会いは小学生の頃だった。

テレビで見ていた世界陸上。100分の1秒の世界で戦うアスリートの姿に魅了された。憧れはタイソン・ゲイ。脚の回転の速さと、後半の伸びに毎回息を呑んでいた。

運動会ではいつもぶっちぎりの一位だった。ドッジボールもサッカーも野球も、近所の子よりも上手かったと自負している。

でも、あの走りをするにはそれだけじゃ足りないのだと思った。

両親に頼み込んで、地域の陸上少年団に入った。


ふと、部屋の一角に目を向ける。

様々な大会でもらったメダルやトロフィーのうち、立派なものは母がリビングに飾っているけれど、数が多すぎて行き場をなくしたものが本棚の上にホコリを被って並べられていた。