「本当は戻りたいんじゃないですか」
「……めろ」
「村瀬さんたちと一緒に走りたいんじゃないですか」
「やめろ」
「陸上、好きなんじゃないですか。好きだからたくさん練習して、努力していたんじゃないですか」
「やめろって言ってんだ!」
「やめません!」
顔を上げて怒鳴った日向先輩に、負けるもんかと声を張った。
日向先輩は今まで見たことのないような険しい顔で私を見ている。いつもの私だったら、怯んで何も言えなくなっている。
だけど今日の私は、隣に真央くんという味方がいる。前髪には紫苑先輩のくれたヘアピンがある。そしてこの大役は、村瀬さんが任せてくれたものだ。
「日向先輩の悪い癖です! いつもいつも笑顔で、周りのことばっかり考えて!」
目を逸らさずに伝えよう。
いつも日向先輩がそうしてくれたように。
「そうやって全部吐き出してくれたらいいんだ! 何のために私たちがいると思ってるんですか!」
日向先輩の瞳が揺れた。
その手の中に握られていたてるてる坊主が、くしゃりと歪む。