でも、競技場の名前をダイレクトに伝えてしまったら、日向先輩は行かないと言い張るだろう。

だってほら、その証拠にスケッチブックを見つめる日向先輩の眉根は寄っている。

焦る私とは対照的に、直球の何が悪い、とでも言いたげに堂々としている真央くん。その色素の薄い瞳は強い意思を持っているようだった。


「……村瀬、か」


不意に日向先輩が呟いた。

村瀬がお前らに頼んだんだな、とまた確認するように小さく言って、スケッチブックから顔を上げる。

ここまで直球で言っておいて、今さら隠す必要もない。そう思った私は、意を決して日向先輩と向き直った。


「大会に行きましょう、日向先輩」


私たちと一緒に。

左のこめかみあたり、留まっているキラキラのヘアピンを触りながら、私はそう言った。触っていたら、紫苑先輩が勇気を貸してくれるような気がしたのだ。


「行かない」


しかし予想通り、日向先輩は首を横に振った。

私たちだけで行っても何の意味もないことを分かっているくせに、お前らだけで行ってこい、とこれまた予想通りの反応をする。