「デートじゃないです」


ギッとパイプ椅子が音を立てる。

一枚ください、とコピー用紙を貰いながら、どういうふうに誘えばいいのか考えていた。

真正面に座る日向先輩はいまだ勘違いしているらしく、照れなくてもいいぞ、と笑っている。


きっと正直に誘っても頑固な日向先輩は来てくれない。陸上の大会に行こうと言ったところで、お前らだけで行ってこい、とか言われそうだ。

今日まで時間はあったのに、ジャズばかり聴いていて何も考えていなかった自分を恨む。

連れて来て、と頭を下げた村瀬さんが頭をよぎった。私たちみたいな頼りない後輩に頭を下げてでも、村瀬さんは日向先輩と走りたいのだと思う。

せっかく頼ってもらったんだ。私だって頑張りたい。

いつだって日向先輩のことを気にかけて、私たちのことまで気にかけて、笑顔で話しかけてくれる村瀬さんの役に立ちたい。


「土曜日はデートじゃなくて、すごく……大切な約束があって」


ぐしゃっと丸めたコピー用紙を、さらに新しい紙で包む。


「大切な約束?」


何だそれ、と日向先輩は首を傾げつつ私と同じように新しい紙で包んだ。