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「なあ葵、土曜日って何かあんのか?」
放課後。色んな部活から洗濯物を回収して、部室に戻って来たタイミングで日向先輩は口を開いた。
空は綺麗な夕焼け色に染まっていて、部室の中までオレンジの光が差し込んでいる。
米川さんと話してみる、という決意とは裏腹に、お昼休みが終わるギリギリの時間まで部室で真央くんと過ごし、極力教室にいる時間を少なくした。放課後も逃げるように部室に戻って来た私を真央くんは咎めることもなく、また今度頑張れ、と背中を押してくれた。
でも、日向先輩を誘うのは、今日じゃないと駄目だった。こっちは逃げることができないことだった。
「ほら、土曜日まで晴れててほしいって日誌に書いてあったからさ! ちょっと気になってんだよ、もしかしてまたデートか!?」
俺は全力で応援するぞ、とノリノリの日向先輩は、てるてる坊主でも作っとくか、と棚の中段からコピー用紙を数枚取り出して机の上に置いた。
いつものパイプ椅子に座ってコピー用紙をぐしゃっと丸め始めた日向先輩。その姿を見て、一度大きく息を吸った私は、隣に立つ真央くんに視線を向けた。
真央くんはそんな私を見下ろして、ゆっくりと頷く。
そのとき揺れた色素の薄い髪は、夕日のオレンジを浴びてキラキラと光った。
私も同じように真央くんに頷き返す。そしてぎゅっと手を握って、日向先輩の向かいの席に腰を下ろした。