(話してみればいい)
ずいっと差し出されたスケッチブックには、シンプルにそれだけ書かれていた。
うん、そうだ。私が恐れずに話をすればいいことなんだけれど。
「でも私、話すの下手だし」
(だいぶ上手くなった)
「確かに真央くんたちとは毎日一緒にいるから、そう思ってもらえてるかもしれないけど、……」
でも、と続けた私を遮るように、真央くんが私に手を伸ばした。反射的に目を瞑れば、左のこめかみあたりに柔らかい圧迫を感じる。
真央くんが触れたのは、紫苑先輩からもらったヘアピンだった。
「……え」
どういう意味か分からず首を傾げた私に溜め息を吐いて、真央くんはまた左手を動かす。
(もっと自信を持て)
少し崩れたその文字は、まるで魔法みたいに、私の背中をそっと押した。