「さっき教室で米川さんが話しかけてくれてね、こうやって言いたかったんだけど、でも、あの、……うがあああ」


恥ずかしさが舞い戻ってきて、思わず唸る。

そんな私を真央くんはじっと見ながら、グラスに口をつけた。こくり、音を立てながら動いた喉仏。

つられて私もだるだると身体を起こし、同じようにオレンジジュースを口に含む。喉を通っていく酸味が心地好くて、ごくごくとそのまま一気飲みした。プハッと言いながらグラスを置いた私に、お前本当に女か、と真央くんの冷たい視線が聞いてくるけれど気にしないでおこう。


「このあとどんな顔して教室行ったらいいのか分かんないや」


溜め息混じりにそう呟いて、お弁当の包みを広げる。ぱかっと蓋を開けると、今日は国民的キャラクターの電気ネズミがにっこりと笑っていた。

黄色い顔はオムライスのようで、丸く切ったニンジンで赤いほっぺたを表現している。相変わらず凝っているな、と思いながら手帳型のスマホケースを開き、撮った写真をお母さんに送った。

すぐさま既読がついて、嬉しそうなスタンプが送られてくる。私はそれを確認してスマホケースを閉じた。


「ちゃんと、話してみたいんだけどな」


そう言った私の隣で、真央くんが鉛筆を持った。利き手は左。スケッチブックの上をさらさらと滑る。