「真央くん……わたしゃもうだめだ……」
慰めの言葉が返ってくることは期待していない。でも吐き出さなければ、恥ずかしさでこの世から消滅してしまうような気がした。藁にも縋るような気持ちとは、こんな気持ちのことをいうのだろうか。
ぐでっと机の上に上半身を乗せて、真央くんのほうを向いた。
真央くんは至極面倒くさそうな顔をしながら冷蔵庫を閉じ、二人分のオレンジジュースを持ってきてくれる。思ってもみなかった優しさに涙が出そうだ。
どうやら話を聞いてくれる気はあるらしく、真央くんは私の隣のパイプ椅子に腰を下ろす。つい最近まで紫苑先輩の指定席だったところだ。
「この前、村瀬さんと三人でカフェ行ったとき、ジャズの生演奏見たでしょ? あれでね、トランペット吹いてたのが私のクラスの米川さんっていう人で」
初めの頃、真央くんに感じていた畏怖はどこへやら。私の口はペラペラと言葉を吐き出していく。
「すっごい心が揺さぶられたんだ。私もトランペット吹いてたけど、私が吹いてたのと全然違うものに聞こえて、楽しそうで、自由で、いいなあって思った」
さっき米川さんへ伝えた言葉は、あながち間違いではない。
惚れたんだ、あの楽しそうな演奏に。