聞きたいことがたくさんある。でも、話しかける勇気は持ち合わせていない。

そんな臆病な私は、米川さんの指がノートの上で遊ぶように動いているのを見るだけで、なんだか満足したような気になっていた。



「ねえ」


だから、そう。


「あたしの顔、何かついてる?」


こうして米川さんから話しかけてもらえるなんて、思ってもみなかったのだ。


四限目終了のチャイムが鳴ると同時に、教室から出て行った古典の先生を目で追っていた私の前に、塞がるようにして立った米川さん。私は鞄から取り出したお弁当箱を、危うく落としそうになった。


「え、あ、え、えっと」


早くここをどかないと、前の席の寺島さんの友だちが来てしまう。きっと今日も私の席を使うだろうから、私がいたら邪魔になるのに。

そう思うけれど、私は米川さんに話しかけてもらえたことで気が動転して、わたわたと両手を意味もなく動かす。

上手く目を見れなくて、咄嗟に前髪で隠そうと俯いたけれど、紫苑先輩から貰ったヘアピンがそれを阻止した。