「よ、米川さ……ん……?」


驚いた私の声をかき消すように、一斉に四人が音を鳴らした。

性別も年齢もバラバラの四人が鳴らすその音楽は、店にいたお客さんを釘付けにした。

何も考えずに、自由に、遊ぶように、音を操る。それなのにところどころ四人の音がぴたりと合わさって、ハッとするような響きを生む。


ジャズだ、と思う。

吹奏楽部にいたときに、文化祭用に少しだけ演奏したことはあったけれど、それとこれとは比べ物にならなかった。これは私たちが指揮棒に合わせて演奏していた“ジャズの曲”ではない。ジャズ特有のスウィングとアドリブ、そして何より遊ぶような音色。店のお客さんみんなを魅了するこれこそが“ジャズ”なのだ。

主役が次々と移り変わっていく。けれどトランペットはやっぱり花型で、米川さんが息を吹き込むと一気に曲が盛り上がるのを感じた。



「……すごい」


ぽろり、と。

それはごく自然に落ちていった。


夢中になって演奏を聴いていた私は、隣にいた真央くんの耳がそれをばっちり拾っていたということに気づかなかった。


一曲目が終わって、あちこちから拍手が送られる。


「Blowin' The Blues Away」


米川さんがマイクを通して大事そうに呟いたその曲名を、私は傘の中で繰り返し唱えながら帰り道を歩いた。