聞きたいことが聞けた私と、言いたいことが言えた村瀬さん。互いに目的を達成した私たちは、ようやく緊張が解けて飲み物を味わう。ふうっと息を吐いてココアを口に含むと、その甘さがゆるゆると全身に沁みた。



そのときだった。


不意に店の中に流れていたBGMが消えた。

何事かと思ってきょろきょろと周りを見回せば、他のお客さんたちも不思議そうにしていて。


「……何だろな?」


不思議そうな村瀬さんの声と同時に、店の奥のほうから拍手の音が聞こえてきた。

え、と思って視線を向ければ、グランドピアノとドラムセットが置かれていた小さなステージにライトが当たっていた。

グランドピアノの前には白髪交じりのおじいさん、ドラムセットの前には大学生っぽいお兄さんが座っていて、さっきまで無かったはずのコントラバスを眼鏡をかけたおじさんが抱えている。さらに、ステージの真ん中には金色のトランペットを持った明るい髪色のお姉さんが立っていて……うん? あれ? え?

それぞれが少しずつ音を鳴らして確認をしている。でも私はもうトランペットのお姉さんから目を離せなかった。

その明るい髪は見たことがあった。クラスのクールな一匹狼。お昼休みはいつも一人で、でも堂々と教室の中でメロンパンをかじっている。この前の体育の時間、バスケットボールを顔面キャッチした私を見て爆笑していた女の子。