でも、一つだけ。明らかに違う点がある。


「俺はまた、あいつと走りたい」


日向先輩には、こうして待ってくれている人がいる。いつでも戻って来れるように、つねに日向先輩のことを気にかけている村瀬さんがいる。

それは、日向先輩がこれまで作り上げてきた人望なのだろう。誰よりも熱心に練習に取り組んでいた姿を、誰よりも大きな声を出す姿を、みんなが見ていたのだろう。


私の隣で真央くんはマグカップを両手で持ち、ココアを冷ますように息を吹きかけていた。


「三年生が引退して、陸上部は新しい体制になった。三浦がいない間に、俺たちも着実に速くなった。三浦に頼らなくても強いチームでいられるように、俺は陸上部を支えていくつもりでいるよ」


だから、と呟いた村瀬さんの声は掠れていた。


「葵ちゃんと真央くんの力を貸してほしい」

「え……?」

「今週末、大会があるんだ。そこに三浦を連れて来てほしい」


真正面に座る村瀬さんが、頭を下げた。その行動に驚いて慌てて声をかけようとした私の肩を、真央くんが制するように掴む。色素の薄い瞳は、最後まで聞け、と私に言っているようだった。